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美人のお姉さんに会ってみたかったんです

画像はイメージです

修羅場っていうかワケワカランな話。
社会人一年生の時、つきあった彼女がいた。
俺は正社員で彼女は派遣だった。

俺はきっすいの関東人で職場も関東。
彼女の家は関西の生まれで進学を機に上京したと言っていた。
2人姉妹で、彼女の姉は美人で頭がよくて「世界一姉を尊敬している」と彼女はよく言っていた。
俺は弟しかいないから男のきょうだいと女のきょうだいって感覚が違うんだなーと思っていた。


お盆休みが来て彼女は地元に帰った。
俺は写真が好きで、知らない町の祭り風景を撮るのに当時はまってた。
実家はもともと近いから盆休みだからって帰省する必要もないと西へ行きあちこちの町で写真を撮ってついでに帰りに彼女の実家に寄ってそのまま彼女を拾って帰ろうと思った。

彼女にその旨メールすると「夕飯は七時頃だからその頃に来て」と返事があった。
俺は七時ちょっと前くらいに彼女の家に着いた。

家には彼女のご両親と彼女がいた。
居間に通されると五人分の夕飯が並んでいてテレビがついていた。
両親と、彼女と、彼女の姉と、俺のぶんと五人だなと思った。

でもまだ彼女の姉が揃わないうちから夕飯がはじまった。
俺が「お姉さんは今日はまだお帰りにならないんですか?」と目の前の父親に訊くと父親は「私は他人なんでわかりません」と言う。
俺が「?」と思っていると、彼女が横から「この人はうちのお父さんじゃなくて、他人だから」とにこにこしながら言った。
俺はなおも「??」と思ったが向かいにいるお父さんじゃないらしい初老の男性も照れたようににこにこしている。

わけがわからないので母親の方に「美人のお姉さんに会ってみたかったんです」と愛想笑いしてみた。
そしたら急に母親はバン!と箸を置いて「そう思うなら、何で真っ先に仏間に行かないんですか!!」と怒鳴った。
ますます「???」な俺。

母親が怒鳴り続ける内容を聞いていると、居間の隣に仏間があってまず「お線香をあげさせてください」と申し出るのが礼儀だろうということだった。
俺はただ「すいません」と言うしかなく食事の途中だったが仏壇にお線香をあげさせて下さいと言った。

仏壇には四つ位牌が並んでいた。
彼女の祖父母と、父と、姉だそうだった。

「え?お姉さん?」と訊き返すと「自殺したんですよ!」と母親が怒鳴った。
そんなの聞いてない。
いつ?と彼女を振りかえったら彼女がにこにこしながら「小学生のときに自殺したの」と言った。
その横で何者かもわからんおっさんもにこにこしてた。
俺はなんか気持ち悪くなってきて、うわぁなんかここに長居したくねぇ~と思い始めた。

でも夕飯が終わるまではいないとおかしいかと思いみんなで居間に戻って食事のつづきを再開した。

彼女は相変わらずにこやかで、十年も前に自殺した?らしい姉の話をまるでまだ生きてるみたいに「おねえちゃんがね~」と話していた。
その合間合間に、母親が「死んだんだよ!」「とっくに死んだんだよ!」ってぶつぶつ言っている。
俺の正面にはずっと誰だか知らんおっさんがいてにこにこしながら二人を眺めてメシ食ってる。

「あなたは誰なんですか?」と訊くわけにもいかず、無理やりメシを詰め込む俺。
誰も食わない五人目のメシはどうも陰膳のようなものらしかった。
死んだ人のうち誰のぶんなのかはわからずじまいだった。

食べ終わってお茶を一杯もらい俺は「腹が急に痛くなった」とみえみえの嘘をついて帰らせてもらうことにした。
彼女を連れて帰るのはなんか怖かったからやめた。

知らんおっさんは「お腹が痛いのはよくないですねえ」「重大な病気かもしれませんね」「よくないですねえ」ってずーっと言ってた。
よっぽど重大な病気であって欲しいらしいな!と思ったが不気味だったから何も言いかえさずにおいた。

急に外でパン、パンと二回音がしたから「祭りの花火ですか?」と言うと「何も聞こえませんよ!!」と母親に怒鳴られた。
あとで車に戻ったらタイヤの横に爆竹がいくつか転がってたから子どもが庭先に爆竹を投げていった音らしいんだけど、それも詳細は不明。

休みが明け、俺はなんとなく彼女が気味悪くなってそのまま疎遠になり、俺たちのつきあいは自然消滅した。

その後俺の同期と彼女がつきあったらしい。
あるとき同期に「相談したいことがある」と言われたが「彼女のことなら俺はなにも知らないし、もう知りたくないから相談にはのってやれない」と答えたらすぐに「そうか」と言って引っこんでくれた。
そのうち派遣の契約が切れて彼女は会社に来なくなった。

今でもたまにあれはなんだったんだろうと思うこともあるがやっぱり首をつっこまなくて正解だったんじゃないかと思っている。


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