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彼との日常が、弟の存在で輝きを取り戻した夜

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大学の図書館で資料を探していると、スマホが震えた。画面には「颯真」の名前。彼のメッセージはいつも短くて、「今夜、行く。飯用意しとけ。」というものだった。私は思わず息を飲んだ。今日は金曜日。週末は久しぶりに実家に帰る約束を弟の陸としていた。颯真との関係がぎくしゃくし始めてから、陸と過ごす時間が唯一の心の安らぎだった。

颯真と付き合い始めたのは大学1年生の春。最初は優しくて気遣いもでき、憧れていた先輩だった。でも、だんだんと彼の言葉は尖り、些細なことで激怒するようになった。私の服装や友達付き合いにまで口を出し、最後には手が出るようになった。昨夜も、バイト先の男性店長と話していたことを責められ、腕を強く掴まれてアザができていた。昔、父から受けた暴力の記憶がよみがえり、抗うことさえできず、ただ俯くことしかできなかった。




帰りの電車で、陸にメッセージを送った。
「明日、お昼には着くよ。駅まで迎えに来てくれる?」
すぐに既読が付き、返事が返ってきた。

陸
『了解!楽しみにしてるよ、姉さん。母さんが姉さんの好物のカレー作るってさ』
その優しい言葉に胸が熱くなった。陸は17歳だけど、背は180cmを超え、剣道部で鍛えた体は大人よりずっと大きくて頼もしい。子供の頃、父の暴力から私を必死で守ろうとしてくれたあの頃から、私の小さな守護神だった。

アパートのドアを開けると、すでに颯真が中にいた。冷たい目で私を見つめる。
「遅いぞ。どこほっつき歩いてた?」
「ごめん、図書館にいて…」
「明日、実家に帰るんだよね?楽しみだな」と言いながら、カバンから帰省用の小さなバッグを取り出そうとした私の手を、颯真が強く握った。
「帰るなんて許してないだろ。電話してキャンセルしろ。」
「でも…陸と約束して…」
「俺の言うことが聞けないのか?」
彼の声は低く威圧的だった。拒む私の頬に平手打ちが飛んだ。床に倒れ、蹴られる。泣きじゃくる私に、彼は私の服を引き裂きながら罵声を浴びせた。
「こんな体で実家に帰れると思うなよ。電話しろ。今すぐだ。」
震える手でスマホを取り出し、陸にかけた。颯真の目が鋭く光っている。

「もしもし、陸?」
『姉さん!どした?明日の準備はできた?』
陸の明るい声が耳に刺さる。颯真が私の髪を掴み、痛みで思わず声が漏れる。
「ごめん…急に大学の課題が入っちゃって…今回は帰れないみたい」
『え?大丈夫?なんか変な声するけど…』
陸の心配そうな声に涙が溢れそうになる。
「大丈夫、大丈夫だから。お母さんにもよろしく伝えてね」
『姉さん…』
「ごめん、切るね」
電話を切ると、颯真は満足そうに笑い、私をベッドに押し倒した。彼の重みと嫌な感触に、私は心を閉ざした。全てが終わり、彼が出て行った後、私は裸のまま布団に丸くなり、涙が止まらなかった。あの頃と何も変わっていない。私はまた誰にも助けを求められないんだ。

すると、玄関で物音がした。颯真が戻ってきたのかと恐怖で体が硬直する。ドアが開き、電気がついた。
「姉さん!」
そこに立っていたのは、ジャージ姿の陸だった。彼は私の無残な姿を見て一瞬で状況を理解した。すぐに自分のジャケットを私に羽織らせ、涙でぐしゃぐしゃの私の顔を拭ってくれた。
「大丈夫だ、もう大丈夫だよ。俺が来たから」
陸は風呂場に行き、お湯を張り始めた。そしてキッチンで温かい紅茶を入れ、私の腕や足のアザを優しく消毒してくれた。彼の手は大きくて温かかった。
「あいつだな。颯真って奴が姉さんをこんなにしたんだろ」
「陸…」
「子供の頃みたいに、また俺が守る。だから全部話してくれ。絶対に許さないから」
私は震える声で、颯真との関係、暴力、恐怖を全て話した。陸は真剣な表情で聞き、時折拳を握りしめていた。
「もう姉さんは一人じゃない。俺がいる。あいつには明日、俺から直接言ってやる」

次の日、颯真がいつものようにドアを開けて入ってきた。そして陸を見て怒りだす。
「なんだこいつ!浮気か!」
「こんにちは、颯真先輩。俺は姉さんの弟、陸です」陸はゆっくりと立ち上がり、颯真を見下ろすように立った。その迫力に颯真は一歩後ずさる。
「ちょっと話があるんだけど。姉さんにしたことを、全部先輩に返してもいいかな?」
陸はにやりと笑い、首を鳴らした。
「お、お前何言って…彼氏だぞ俺は!」
「彼氏?彼氏が彼女にアザを作って、裸で放置するんですか?SNSの位置情報もずっと監視してたみたいだし、もう全部バレてますよ」
颯真は慌てふためいた。「私子!何てこと言って…」
「もういい!」陸の声が雷のように響いた。「今すぐ合鍵を置いて出て行け!二度と近づくな!次にお前の顔を見たら、それ相応の結果になるからな!」
颯真は恐怖に震え、合鍵を床に投げ捨てると、まるで逃げるように去って行った。私はその様子を見て、思わず笑いが出た。陸は私の小さな弟じゃない。立派な守護神だった。

それから私は陸と一緒に実家に帰った。家族の温かい笑顔に包まれ、ゆっくりと心の傷を癒していった。颯真とは完全に決別し、アパートも変えた。

それから数年後。私は社会人として働き、新しい恋人也できた。優しくて強い人だ。ある週末、陸が彼女を連れて訪ねてきた。彼も立派な警察官になっていた。彼女はとても可愛らしく、二人はとても幸せそうだった。
「姉さん、結婚式で姉さんへの手紙を読むからね。楽しみにしてて」陸は照れくさそうに言った。
「ありがとう、陸。あなたは本当に最高の弟よ。お姉ちゃんの自慢だよ」
私は心からそう思った。あの暗い夜を乗り越え、陸の存在が私に光を取り戻させてくれた。彼の強さと優しさが、私を再び立ち上がらせてくれたのだ。

今、新しい恋人と過ごす夜は、優しいキスと愛撫から始まる。彼の指がそっと肌をなぞり、甘い囁きが耳元で響く。ゆっくりと重なる体の温もり、激しくも優しい腰の動き、そして互いの息遣いが一つになる瞬間。全てが愛おしく、全てが輝いている。あの時味わった絶望は、今この幸せのためにあったのかもしれない。私は強く抱きしめられながら、静かに囁く。「ありがとう、愛してる」と。


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